日本情報産業新聞新春座談会 次世代型IT企業への道筋を探る(3/3)

2014 3/31公開

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登壇者

潟\ニックガーデン 代表取締役社長CEO 倉貫義人氏

潟Wャスミンソフト 代表取締役 贄良則氏

叶略スタッフ・サービス 代表取締役社長 戸田孝一郎氏

 贄 今の事例を興味深く拝聴していましたが、怖いと感じたことが1つあります。120機能が160機能に増えて、契約金額はそのままで、赤字ではないというお話でしたが、契約のなかでユーザーに追加機能でなく既存機能の一部だと押し切られたといったことはなかったのでしょうか。SIビジネスの難しいところにその問題があると思うのですが。


  戸田 確かにその通りで、話す相手先が情報システム部門だったらそうなります。最初は情報システム部門が窓口だったのですが、ビジネスの優先順位を付けてくださいといった瞬間、情報システム部門では決められず、窓口が経営者やユーザー部門に切り替わっていったんですね。さらに信じられない話ですが、途中でお客さんがこれだけやってくれたのだからと認めてくれて、増額してくれたのです。

  贄 なるほど。ユーザーや経営者と話ができたわけですね。情報システム部門が相手だとそこで喧嘩になるんですよね。

  戸田 アジャイルはユーザー部門や経営者と話をしないとできません。先ほどのお二人の話のように、技術者にはプライドがあり、自分が作ったものをちゃんとお客さんに評価してもらいたい、使ってもらいたいと考えています。しかし今は努力に対する見返りが無く、一律時間に対する給料しかもらえない。なのに技術を磨いて効率化しようとか、早く作ってリリースしようとか思わないですよね。

  ―人月という考え方は。

  戸田 私はアジャイルとは、人月ビジネスから抜け出すための枠組みだと考えています。

  贄 人月という言葉は他の業界でも使われていて悪ということではないのですが、この業界での人月という言葉の中に、人は交換可能という意味が含まれているのが問題です。10人月だというと、じゃあ単価の安い人を入れればいいと。頭数さえいればよくて、集められるブローカー的な力が強くなっていき、階層構造が出来上がっていったわけです。さらにそこにはリスクを回避しようという力学が働いている。本当にやりたいことは、企業のビジネスの価値を上げて成功させたいといったところにあったはずなのに、いつの間にか目的がどこが人月単価が安いのかということになり、誰も幸せになれない構造になっているのではないでしょうか。

  ―アベノミクス効果で案件が増えていますが、案件の単価は戻っていない。この状況はチャンスになるのでしょうか。

  戸田 どうでしょうね。ベンダーの経営者の意識が変わらないと難しいのではないでしょうか。テクノロジーに対する知識を持っていて、だから自分たちのビジネスはこうすべきといえる経営者だったら対応できるのでしょうが、残念ながらITベンダーの経営者のなかにそこまで理解できている方がいらっしゃるのかは疑問です。

5年で一部上場も(戸田)

 ―日本のSI業界は新陳代謝が少ないです。業界の主役が変わらないからビジネスモデルも変わらないのでは。

  倉貫 人月モデルにしてもせいぜい30年程度のものです。我々のモデルも普通に真似してもらい、一般用語になって人月とならぶ選択肢になってくれればいいと考えています。

  戸田 仕事柄旧来型事業の方と話す機会が多いのですが、考え方によってすごく変わることもあります。先ほどのソフト会社ですが、私は5年前にアジャイルの導入始動を始めたのですが、そのときはまだ未上場でした。いまでは東証一部上場企業です。もともと、大手の下請けというビジネスモデルで、アーキテクトもプロマネもSEもいない、いるのはプログラマーだけという会社でした。この会社がどのようにして一部上場まで上り詰めたかというと、まずアジャイルをはじめとする新しいテクノロジーや手法を取り入れるのが早かったことです。ただ導入するだけでなく、自分たちが弱い部分をどう補っていくのかを考えました。次に、オープンソースの活用が早かったこと。同社はグーグルのテクノロジーアワードを5年連続獲得しています。モバイルへの対応も早かったですね。普通のSI会社で最新のモバイル領域まで自社で対応できる会社は数えるほどです。最後は、ソフトを作るのはデジタルの世界ですが、デジタルで終わっていないことです。サービスを提供するためには、必ずお客様のなかでデジタルとフィジカルをつなぐインターフェースが必要になります。もともとはソフトを作って納めるだけのモデルでしたが、それだけではサービスとして完結しないので、一部フィジカルなサービスを自分たちで提供しようと考えたのです。具体的には、コンビニ収納代行サービスを開始し、これがすごく伸びています。ゆうパックのシステムでも、フィジカルの部分もサービスとして展開しています。今後SI会社がサービスを展開していく際、システム開発だけでなく、サービスを付けて提案することでビジネスの機会は増えていくのではないでしょうか。地方の300人くらいの企業でもできるのですから。

  ―開発の効率化という部分はどうでしょうか。業界最大手企業も効率化ツールを使っている状況です。

  贄 我々に声をかけてくるのは圧倒的にエンドユーザーが多いです。レガシーシステムを持つユーザーさんが、当社のツールを見つけて「これを使って開発すれば安くなるのでは」と、お抱えのSI会社さんに声をかけるという構造ですね。適用できる、できないはケースバイケースですが、ユーザーさんのほうが、今の状態の保守をあと何年も続けていくことに疑問を持っていて、どうすればいいかをSI会社に相談すると「再構築しましょう。何十億かかります」という話になり、それは無理ということで会話が断絶してしまいます。私自身は、基幹系システムを再構築しないとその事業は一緒に終末を迎えてしまうと捉えてます。システムと一緒に事業を終わらせるのならともかく、その事業をさらに展開していくのにはどうしても再構築は必要です。それでも前の予算は出せないから、違うアプローチで開発するしかありません。

  ―移行するのにリスクは。

  贄 一回トライしてそれでうまくサイクルが回り始めれば、情報システム部は攻めることができると思います。確かに今はまだできていません。失敗も多いですが、システム移行は乗り越えなければいけない壁です。そのためにはいろいろなものを切り捨てていかなければいけないわけです。30年位付き合いのある、特定顧客向けの機能とか、昔の部長が肝いりで作った機能だとかいろいろありますが、そこにナタを振るっていく勇気が必要です。未来への成長のためにしがらみを切っていきましょう。ただ、現状のようにCIOが経営会議で末席に座らされているようでは難しいし、個々の担当者が上申できないような環境でも難しいですけどね。

 
倉貫氏


新しい経営者の登場に期待(倉貫)

  戸田 今まで現状の悪い部分や問題点も指摘しましたが、それらを乗り越えていけばビジネスのチャンスはたくさん転がっていますから、要は殻を破れるかどうかではないでしょうか。ただしそれは経営者が考えないと難しいことですが。

  倉貫 新しい経営者がもっとでてくればいいですよね。

  戸田 ひとつ結論付けますと、倉貫さんのモデルのようにアプローチ先を変えましょうということですね。ユーザー部門に行けば、お客さんも困っているし、相談を投げかけてくれますから、そのなかからアイディアはいくらでも出せます。考え方の問題であって、今すぐできることだってたくさんありますよ。倉貫さんのモデルもそのまま真似はできないにしても参考になりますし。業界はこの先決して暗くないですよね。


  贄 はい。

  倉貫 我々は納品のない受託開発モデルを3年間実施してある程度成功し、ノウハウもたまってきたので、それをパッケージ化して横展開する事業も昨年より始めています。新しい世代のエンジニアが起業して事業を起こしていきたいと考えたときに、今までどおりの派遣のビジネスモデルが続くのは嫌ですし、エンジニアが経営や契約の仕方がわからないというところから脱したいと考えたときに、その人たちに新しい手法を提供できたらと考えています。

 ―これからクラウドも普及して、案件規模も縮小していくことが予測されます。ユーザーさんと直接対話をする機会も増えるでしょうね。


  戸田 そうなると、逆に小さな会社のほうが有利です。直接ユーザー企業の事業部とのやりとりになると、大きな案件はないですから。


  倉貫 規模を追う人月モデルや納品をするビジネスモデルの場合は、キャッシュフローの問題がありますが、我々のような問題解決型の場合は個人がどれだけ問題を解決できるか、クリエイティブな能力が求められます。例えば、難病を治療するために100人のドクターがいれは良いのかといったらそうではなく、ひとりの治療スキルを持ったドクター求められます。それと同じで、問題を解決するためには少ない人数で十分で、小さい会社でもそれにあったビジネスモデルはあるのです。どこの業界でも、これまでは大きな単位で発注して大きな仕事が生まれてという世界だったものが、どんどん小口化されています。ITの世界もそうなるといいと願っています。今でも大手が仕事を受けて小さく分けて中小ベンダーに振り分けている状況ですから、直接中小企業がエンドユーザーと話をするようになればコストもかかりませんし、ユーザーさんも喜びます。


  贄 当社も含めてですが、効率化されていくためのアプローチがいろいろと提案されていくでしょう。次世代の基幹系の開発は、そんなに人はいらなくなります。設計はどうしても人間がやる領域ですが、その後は人がいらなくなり、SI会社は専門特化していく、あるいはお客さんに寄り添っていくという形に変わっていくでしょう。

  戸田 実は一番世の中の流れに乗れていないのがSI業界で、IT化を推進している業界が一番自動化が遅れているという皮肉な状況です。

  贄 ほかの業界では自動化は進んでいます。

  倉貫 効率化できるところは自動化して、本当にクリエイティブなところだけに人が注力できるようになればいい業界になりそうですね。

  ―本日はそれぞれの立場での貴重なお話をうかがうことができました。経営者や起業を考えている方々に業界のこれからについて真剣に向き合っていただき、お三方の考えやビジネスモデルを参考に、または自らのアイディアで業界を発展させていただければと、業界紙の立場でも期待しています。本日はありがとうございました。

 

ジャスミンソフト

戦略スタッフ・サービス

ソニックガーデン

 

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