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連載 「ITスキルの向上を目指して」


株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役
特定非営利活動法人 ITSSユーザー協会 専務理事
高橋秀典

第6回
ユーザ企業用スキル標準(情報システムユーザスキル標準:UISS)登場!〜その4
E 人材像定義
上記Dで設定した各人材像のミッションと担当業務を定義したもの。

・ ビジネスストラテジスト
全社戦略の実現に向けた事業戦略を立案・評価する
・ ISストラテジスト
事業戦略実現に向けたIS戦略を立案・評価する。
・ プログラムマネージャ
IS戦略の実現に向けて、複数の個別案件をマネジメントする。
・ プロジェクトマネージャ
IS戦略の実現に向けて、個別案件をマネジメントする。
・ ISアナリスト
IS戦略の実現に向けて、個別案件のIS企画を立案・評価する。
・ アプリケーションデザイナー
IS戦略の実現に向けた、個別案件のアプリケーションコンポネントの導入・保守を実施する。
・ システムデザイナー
IS戦略の実現に向けた、個別案件のシステムコンポネントの導入・保守を実施する。
・ ISオペレーション
ISの効果の最大化のために、システム運用を安定的・効率的に実施する。
・ ISアドミニストレータ
ISの効果の最大化のために、利用実態に即した活用計画を立案し、施策を遂行する。
・ ISアーキテクト
ビジネス環境の変化や情報技術の進展に、企業として継続的に対応するため、IT戦略を立案し、その構築と評価、維持・管理を行う。
・ セキュリティアドミニストレータ
全社の情報資産へのセキュリティにおける社内外からの脅威やリスクへの対応に責任を持つ。

F キャリアフレームワーク
上記C〜Eを組み合わせ、人材像ごとのレベルを定義したもの。

UISSキャリアフレームワーク      出典:経済産業省
 UISSでは、ユーザ企業のIT部門として必要な機能を網羅的に定義してあり、そこからUISSを活用する各企業の戦略やビジネスモデルを基に、必要なものを選択してくるという方式になっている。選択した機能に必要なスキル定義がセットになっているので、機能を選択するだけでスキルセットの基本形ができるという考え方である。活用側に軸足を置いた効果的な考え方で、企業戦略から入るという理想的なトップダウンでの策定手法と言える。

拡大
                           UISS活用手順     出典:経済産業省

 具体的なスキル定義は、機能・役割定義に含まれるが、現在のところ展開するまでに至っておらず、次のフェーズでの策定となる見込みである。したがって具体的に企業で活用するには、スキル定義のリリースを待つ必要があるすが、あまり時間をおかずリリースされることになっている。
また、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルなどコンピテンシーに関しては除外されている。理由は、コンピテンシーは能力を語る上では、非常に重要なファクタであり、人材育成を考える場合に切り離すことができないものだが、企業のあり方によって千差万別であり、企業文化そのものとも言えるため、標準には馴染みにくいとの判断である。
今後の展開
ITSSは、戦略を持った企業が利用すると絶大な効果を発揮する、というのは経済産業省やIPAが発信し続けてきた重要なメッセージである。それを聞き逃し、または理解できず、何も考えずに人事制度に取り入れたり、取りあえず診断を実施してみたりと、様々なメディアでも取り上げられているような失敗例が多いのは、殆どITサービス企業側です。安易な方向に流れる傾向は未だに変わっていない。
しかし一方では、典型的な理解不足の事例ではなく、ファイザー社、リクルート社、サイバード社、アフラック社などユーザ企業の好事例が、注目を浴びている。このようなユーザ企業の考えや真摯な取り組み姿勢を目の当たりにして、経済産業省が打ち出したUISSは、正しい策だと確信できるものである。3年以上もかかって自分のものにできないITサービス企業を尻目に、ユーザ企業の活用が本格化し、人材育成の効率化と体制強化を進めて行くのは間違いないだろう。

■お知らせ

当コーナーの執筆者 高橋秀典氏の著書「ITエンジニアのための【ITSS V2】がわかる本」が、9月21日に翔泳社から「わかる本シリーズ」の最新刊として発売されました。ITスキル標準V2をテーマにした最初の書籍として著されたもので、ITスキル標準V2の概要から具体的な導入方法、活用の仕方、ITスキル標準を導入している企業の事例などを、ITスキル標準の第一人者として知られる高橋氏の豊富な経験を元に、わかりやすく解説した必見の書です。

主な内容
第1章 ITSS V2 について
第2章 組織におけるITSS活用
第3章 個人におけるITSS活用
第4章 認定制度との関係
付録A  ITSS入門
付録B  ITSSを理解するための手段
発売:翔泳社
価格:\2,940
発売日:2006年9月21日
サイズ:A5判
ページ数:264
著者:高橋秀典


 スキルスタンダード研究所 http://www.skills.jp/
 ITSSユーザー協会 http://www.itssug.org/

著者紹介 たかはし ひでのり
1993年に日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させるなど活躍。最終的にシステム・エンジニア統括・執行役員を経てオラクルを退社、2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月スキルスタンダード研究所を設立。IT人材育成に関係する協議会の各種委員を歴任するなど、ITSSの第1人者として知られる。2006年5月にIPA賞人材育成部門受賞。


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第7回 「経営戦略からIT戦略へ」〜プロジェクト成功の鍵は「ITスキル標準」〜
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第3回 ユーザー企業用スキル標準登場!その1
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